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● 写真館の椅子
”Photo Studio Chair”
2014





2014/4 制作ノートより
写真館の椅子
 写真が日本にやってきたのは幕末ごろと言われ、明治にかけて人々の
間にもその存在が定着していった。当時は現在と比べ感光材がよくな
かったため、撮影の際カメラの前で何十秒間か動かないようにしなくて
はならなかった。顔は動かさなくても眼球を動かしてしまい、黒目のな
い写真ができあがり、リタッチをしている古写真をよく目にした。写場
(写真館)の椅子は撮影に不可欠な道具だった。写真術は未知の技術で
あったろうし、全く同じ形のものが転写されるのだから、動かないよう
に硬直している何十秒間に心がざわめき、様々な思いを想像し、巷では
妖術であり魔術だのささやかれて「魂を抜き取られる」と考えるのも無
理はない。撮影される人が直接触れられた椅子は、カメラ以上に時間を
静止させる道具であり、魂を抜き取る道具だったかもしれない。心を揺
れ動かし、人と心を切り離す革新的な道具が「写真館の椅子」である。
 かつてカメラは写真鏡と呼ばれていたが、その言葉の他に印影鏡、直
写影鏡、留影鏡ともいわれた。人の姿を意味する「影」という言葉の採
用には、写真の歴史が肖像写真から始まったことを示している。「人を
写しとるではなく人の姿の影を写しとる」そう解釈して今回の椅子に寄
り添う家族(姉妹)を制作。塑像された群像写真なので人間ではないの
で魂などない。人の姿をした塑像からは、何を抜き取ることができるで
あろうか、、、かつて椅子に座り心が動かされた心の葛藤を推測すると、
過去の時間を旅しているようで興味深い。

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